美容外科
美容外科手術の経験者に対する調査をもとに、美しい身体を目指し、美容外科医学の患者となっていくプロセスを明らかにする。
近代医学は、治療の対象とする範囲を拡大しながら発展してきたが、近年において本来なら文化的営みともいえるような美容行為がその範疇に組み込まれてきている。身体改良に関する医療技術の発展に伴い、医療の一分野として「美容医療」が認知されるようになったのである。だが、こうした医療は、その治療の目的の決定的な根拠を欠いたまま、進展し続けているだけのようにもみえる。
正統な医療と比較してみると、美容医療の治療対象となるのは、形態上は健康な身体であり、明らかな「病気」を対象としているわけではない。報告者が着目する美容外科医学では、人びとのQOLの向上を目的とし、とくに「醜い容姿に悩む精神的苦痛(コンプレックス)」が治療の対象として掲げられている。このような「心の問題」の改善を目的として、健康な身体に対して外科的な処置がおこなわれる。
美容外科医学において「心の問題」を生起するような身体とはいかなるものなのか。美容外科医学が対象とする身体は、明確な欠陥があるわけでなく、見た目上の微細な差異ともいえる問題に焦点化されるため、その際の基準とは非常に曖昧なものとなる。手術をおこなうか否かの診断基準が、抽象的で必ずしも明確な境界線が引かれているわけではないという点が、美容外科医学の特徴だといえる。
だが、美容外科医による言説は、文化・社会的な「美醜観」に基づく、ある種の形態を「標準的・理想的な身体」として提示し、またそれとは別の形態を「劣っている・普通ではない身体」として提示する。美容外科医学は、身体そのものは病気ではないが、ある種の身体に起因する「心の問題」は医療が対処すべき問題であるという前提のもとに成り立っているが、このように身体を「美/醜」と分けることによって「劣っている・普通でない」とみなされる身体の形態こそが、美容外科が対処すべき問題だと主張しているかのようにみえる。ここでは「心の問題」が重視されているとは言い難く、「美/醜」と「健康/病い」が対応関係にあるかのように扱われている。このような観点からすると、美容外科医学とは「美/醜」を軸とする身体の医療化として捉えることができる。
実際に美容外科手術をおこなった経験者たちは、自らの身体の「美/醜」に対してどのように線引きをおこない、「患者」となっていったのだろうか。本報告では、手術を繰り返しおこなう経験者のストーリーを用いコンプレックスの形成のされ方に焦点を当て、手術によってもたらされる負の帰結とも言える問題について考えたい。